交通事故の加害者に対する処置対応

任意保険の仕組

 自動車保険のうち任意保険とは、文字通り加入者の任意いにより加入する自動車保険であり自賠責保険のような強制保険ではありません。
 ただし、万が一交通事故を引き起こした場合、多額の賠償責任が生じることから、自動車を運転する人の多くの方が加入している保険です。

 任意保険は大きく分けて次の3つに分類されます
1.賠償責任保険…他人に対する賠償のため
2.傷害保険…自分に対する補償のため
3.車両保険…自分の車に対する補償のため

 以下にその種類を説明致します。

賠償責任保険対人賠償保険交通事故により他人を死傷させたとき、自賠責の限度を超える部分について支払われる保険
対物賠償保険交通事故により他人の車や物などを破損させたとき他人に物損を与えた場合に支払われる保険
傷害保険人身傷害保険交通事故により自分が死亡・負傷した場合に自分に支払われる保険
搭乗者傷害保険交通事故により保険契約車に搭乗中の者が死亡・負傷した場合に支払われる保険
自損事故保険相手がいない単独事故・加害者に責任がない事故により運転者や車の保有者等が死亡・負傷した場合に支払われる保険
無保険車傷害保険交通事故により死亡・負傷させられた時、加害者が対人賠償保険に加入していなく、もしくは加入していても充分な額の保険がついていない場合などに支払われる保険
車両保険自分の車が衝突などの偶然の出来事によって事故が起こり、それによって損害を受けた場合に支払われる保険

過失割合(過失相殺)について

・過失相殺とは…?
 ひとえに交通事故と言えども原因は様々です。
 加害者の過失が原因で起こるケースが多いですが、被害者側にも過失があって起こる交通事故も少なくありません。
 交通事故では、事故の原因として被害者側にも過失が認められる場合には加害者の過失と被害者の過失の割合に応じて損害賠償を負わせることにしています。
 このことを過失相殺と言い、双方にどの程度過失があるかを数値で表したものを過失割合といいます。

・過失割合の判断 
 被害者・加害者とで主張が食い違い話し合いで決着がつかない場合の最終判断は、裁判官となりますが基本的に過失割合(過失相殺率)は被害者・加害者がお互いに話し合って決めることになります。
 しかしながら、そのためにはしっかりとした知識を身に付ける必要があり、根拠ある状態での主張しなければなりません。

 参考文献
「民事交通事故訴訟損害賠償算定基準」
「別冊判例タイムズ第16号」 など

・過失相殺に応じた賠償額の変動
 被害者の過失の程度(過失相殺)によって過失割合は大きく変わります。
 過失割合が大きく変わればそれだけ賠償額の支払いも大きく変わってきます。
 例えば、加害者の損害額が2000万円だった時、被害者に30%の過失があれば過失相殺により加害者に対して請求できる範囲は1400万円となってしまいます。
 この場合、10%の過失割合の違いで200万円もの請求金額が変わってしまうので慎重に過失割合を決めて必要があることを理解できるかと思います。

・加害者の過失と能力
 前項までに述べた過失相殺における被害者の過失を問題とした場合に被害者の事理弁識能力は小学校低学年程度になれば備わるとされ、物事の良し悪しを判断できる能力が身に付きます。
 また、3~4歳の幼児の場合、親または保育園等の先生のような監督責任を負う人たちを一つのカテゴリーと考え、その親または先生等の監督義務違反の過失を被害者側の過失として過失相殺されるということを付しておきます。

過失割合における主な加算・減算要素

 本国では交通弱者の保護の観点から過失割合は、大型車<普通車<オートバイ<自転車<歩行者、の順で過失割合の算定も保護がなされています。
 過失割合の修正要素には、いっぱうの過失相殺率を増加させる要素(加算要素)と減少させる要素(減算要素)とがあることを説明致します。

過失相殺の算定基準と基準表の見方
 裁判所や弁護士会は過去の判例等を参考とするために、典型的な交通事故の形態について過失割合を迅速に判断するための算定基準表を作成し公表しています。

算定基準表による交通事故の形態は次の5つに分けられます。
①歩行者と車 ②4輪車同士 ③単車と4輪車 ④自転車と4輪車 ⑤高速道路上の事故

 以上の交通事故は類型ごとに事故当事者の過失相殺率(基本追失相殺率)によって明記されています。
 基本過失相殺率を修正するための修正要素に当てはまる場合には、その修正要素ごとに5~20%の加算または減算することになります。

算定基準表の活用
1.事後類型の選択…当該交通事故の形態から算定基準表のどの類型に該当するのかを選択致します。
2.修正要素該当性の検討…当該交通事故について、1.で選択した類型の修正要素に該当するか否かを検討致します。
3.過失相殺率の計算…類型に記載されている基本過失相殺率に修正要素ごとの割合を加算・減算して、当該交通事故の過失相殺率を計算致します。
 ※双方の主張が食い違い、話がまとまらない、係争事案に発展する場合には、最終的な判断は裁判官によるものとなります。

過失相殺率の修正要素例
A.歩行者と車の事故の場合

加算(1)横断歩道における事故
 ・信号機のない横断歩道および歩行者側の信号が青の時は、原則として自動車側の過失が100%となります。
 ・信号のない横断歩道の場合は、夜間・幹線道路・直前直後横断の時においても最大で5~25%の過失相殺がなされる場合もあります。
(2)横断禁止場所における事故
 ・道路標識に違反して横断はもとより歩道・中央分離帯などを乗り越えて横断を強行したような場合にも過失割合が加算される場合もあります。 道路交通法13条2項
(3)直前直後横断・佇立・後退における事故
 ・横断歩道であっても何らかの理由により横断歩道の前後に車両が止まっていて、見通しが悪い場合には最大で10%の過失相殺がなされる場合があります。
 ・一度自動車の前を横切り終えたその直後に、再び後退して自動車の前に戻ってきたような場合や、ふらつきながら歩いたりした場合には、自動車側の予見の可能性が減少するとして、歩行者側に過失割合が加算されることがあります。
(4)夜間における事故
 ・自動車が走行中ライトを点灯している場合、歩行者に5%程度の追失割合が加算されることがあります。
(5)幹線道路における事故
 ・車両の通行が頻繁で、かつ比較的高速で走行するような道路を横断する際などの場合は歩行者に10%程度の追失割合が加算されます。
減算(6)幼児と身体傷害者、児童と高齢者における事故
 ・行動能力・視野が比較的狭く、それゆれ歩行速度が遅いと当然推定される歩行者である場合には、それだけを理由として、幼児・身障者は20%、児童・高齢者は10%程度減算されます。
(7)集団横断における事故
 ・自動車側から容易にその状況が発見できるため、歩行者お追失割合が減算される事由となります。
(8)住宅街・商店街などにおける事故
 ・これらの場所では当然に歩行者の通行が多いものと推定されるため、歩行者の過失割合は減算要素となります。
(9)車両の過失・重追失における事故
 ・車両の脇見運転・酒酔い運転に至らい酒気帯び運転・時速15キロ以上30キロ未満の速度違反などの過失にあたる場合、居眠り運転・無免許運転・時速30キロ以上の速度違反・道交法上の酒酔い運転などの重過失による場合には、歩行者側の減算事由としています。

B.自動車と自動車の場合
(1)車両の過失・重過失における事故
 ・A.の(9)にあたる事由
(2)信号機のない交差点における事故
 ・優先道路側または道路の幅が広い道路を走行している自動車に過失割合が減算される事由があるとしています。
 ・見通しの悪い交差点では左方優先が原則としています。
(3)センターラインオーバーにおける事故
 ・直線道路でのセンターラインオーバーは、オーバーした方が100%の過失としていますが速度・道路の状況によっては修正されることもあります。
(4)追突における事故
 ・通常、追突側の過失が100%となりますが追突された側に不必要・不確実な急ブレーキがあった場合には追突した側の過失割合の減算される事由となります。
(5)大型車における事故
 ・大型車は危険が大きく、交差点を大きく閉鎖する形になってしまうことから運転手側の加算要素とされています。

C.自転車と自動車の場合

加算(1)高速度進入における事故
 ・おおむね20キロメートルを超過している速度の場合には自転車側に加算要素とされています。
(2)自転車の過失における事故
 ・夜間の無灯火は自転車側の大きな加算要素となります。
 ・酒酔い運転・脇見運転・二人乗りなどの過失にあたる場合、手ばなし運転などの重過失にあたる場合は加算される事由となります。
減算(3)横断歩道進行における事故
 ・自動車は当然に横断歩道付近については歩行者保護のため慎重な運転をするであろうと信頼が生じるため、自転車側の減算要素となります。
(4)児童・老人における事故
 ・幼児は6歳未満、児童は6歳以上13歳未満、老人はおおむね65歳以上の者とされ減算の事由とされています。
(5)自動車の過失・重過失における事故
 ・A.の(9)にあたる事由

損害賠償請求の種類と算定基準

 交通事故の被害者が加害者に対して損害賠償を請求するためには、どのようなものが損害賠償として対象になるのか、どのように計算して算出しなければならないのか理解しなければなりません。
 ここでは損害賠償を請求するための必要なことを説明いたします。
損害賠償として請求できる範囲
 損害賠償の対象となるものには、財産的損害と精神的損害があります。
 また、財産的損害には積極損害と消極損害に分類されます。

財産損害

積極損害・治療費・交通費・葬儀費・車両修理費など
消極損害・休業損害・後遺傷害による逸失利益・死亡による逸失利益・休業補償など

精神的損害

・入院・通院慰謝料・後遺傷害慰謝料・死亡慰謝料

積極損害…交通事故によって支出または発生した損害(治療費や車の修理費など)のことをいいます。
消極損害…交通事故が起きなければ得られたであろう利益(給与など)を失ったことによる損害のことをいいます。

精神的損害とは、交通事故において被害者が直接感じた苦痛や不快などのことで、一般的に慰謝料と言っています。

損害賠償の算定基準
 損害賠償の代表的な算定基準として以下の3つの基準があります。
自賠責保険の基準
任意保険会社の基準
財団法人日弁連交通事故相談センターの基準
※日弁連基準では過去の裁判の判例データを基に損害賠償額の基準を示していることから裁判基準とも呼ばれています。

損害賠償請求ー休業損害について

 消極損害にあたる休業損害は、主に交通事故により仕事を休まざると得なくなり収入(給与)が減った場合などに加害者に請求できる損害です。

必要書類として
 ・会社員の場合は、会社が記載した休業損害証明書と源泉徴収票
 ・自営業の場合は、確定申告書の控え
 ・家事従事者の場合は、家族分の記載がある住民票

※ 実際に収入の減った所得明細が無くても、会社員の方で有給休暇を使用して休んだ場合なども休業損害の請求が可能です。

1.給与所得者の場合
 対象となるのは、本給・各種手当・賞与等、事故被害を受けた時点で得ていた現実の給与額が対象となります。
 立証方法は勤務先が発行する休業損害証明書や源泉徴収票等の提出で立証致します。
※休業中の昇給・昇格遅延などによる減収があった場合も休業損害の対象です。
※退職する場合は解雇してもらうのがベスト。
交通事故により休業が多くなったり以前のように働くことが困難になり会社を辞めざるを得ない場合がよく見られます。
その場合は、可能な限り自主退職ではなく解雇という形にしてもらうのがよいでしょう。

理由
 ・治療中に会社を辞めると、治療までの期間の休業損害が問題となる
 ・会社を辞めた後の期間についての会社からの「休業損害証明書」が発行されなくなる

 退職と事故との間に相当因果関係が認められれば、休業損害が支払われます。ですので、可能であれば会社に解雇の理由を書面にしておらうことをすすめます。

2.事業所得者の場合
 自営業者や自由事業(弁護士、開業医、芸能人、プロスポーツ選手)などの個人事業者の基礎収入は、前年度の確定申告所得額によって立証いたしますが、業績に変動がある場合は、数年間の実績を平均して計算することもあります。
3.家事従事者の場合
 主婦(主夫)には収入はありませんが家事労働も財産的評価が可能であるため、事故のケガにより家事に従事することが困難になった期間については休業損害を請求することができます。算出方法は、賃金センサスの好労働者の全年齢または年齢別平均賃金の額を用います。
 なお、パートなどの収入がある場合には、収入額が上回っている方を基礎として算出いたします。
4.学生・生徒の場合
 学生・生徒には収入が発生いたしませんので原則として休業損害は認められていませんが、アルバイトなどで収入がある場合にはその収入を基礎として算出いたします。
 ただし、交通事故により治療が長期にわたり、卒業や就職が遅れた場合には、就職により得られたであろう収入を損害として請求することは認められています。
5.失業者の場合
 一般的には失業者には収入がないので休業損害を請求することはできませんが、場合により交通事故に遭わなければ、その傷害の治療期間中に働けていた可能性が高いと認められるような時には休業損害として請求することも考えられます。
6.不労所得者の場合
 家賃や不動産収入、年金収入などで生計を立てている人は、交通事故に遭っても減収することはないので休業損害を請求することはできません。

後遺障害慰謝料について

 後遺障害慰謝料とは、交通事故によるケガで後遺症つまり後遺障害として残った場合にその後遺症の程度に応じて加害者に対して請求できる慰謝料のことを言います。
 後遺障害慰謝料には「自賠責基準」と「裁判基準」がありますが、いずれの場合でも後遺障害等級に応じて決められます。
 ただし、どちらを選ぶということではなく裁判基準で算出した金額のうち自賠責基準分だけは自賠責から出るということになっています。
 以下はそれぞれの基準になっている算定を示したものになります。

等級裁判基準任意保険の慰謝料自賠責保険の慰謝料
1級2600~3000万円13001100
2級2200~2600万円1120958
3級1800~2200万円950829
4級1500~1800万円800712
5級1300~1500万円700599
6級1100~1300万円600498
7級900~1100万円500409
8級750~870万円400324
9級600~700万円300245
10級480~570万円200187
11級360~430万円150135
12級250~300万円10093
13級160~190万円6057
14級90~120万円4032

※ 重篤な後遺障害がある場合には被害者だけではなく、被害者の近親者にも慰謝料が認められることがあります。

死亡事故の損害賠償について

 交通事故による死亡損害については、死亡事故によって生じた財産的損害と精神的損害の2つを対象として損害賠償を請求することができます。

財産的損害
積極損害…治療費、葬儀費用消極損害…死亡による逸失利益
精神的損害
死亡慰謝料

(1)損害賠償請求ができる人(請求権者)
 交通事故死の場合、被害者本人は亡くなられていますからご本人は請求することは出来ませんが、即死の場合であってもまずは最初に損害賠償を請求する権利を取得するのは、被害者です。
 これは被害者の方において発生した損害賠償請求権は、被害者の方の財産となるため即死の場合であってもいったんは被害者の方に請求権が発生すると解されているからです。
 これを前提として以下の者が死亡事故における損害賠償の請求権者となることを説明致します。

①相続人
 被害者が亡くなられた後、この被害者が有していた損害賠償請求権という財産は、民法上の相続によって相続財産として相続人の方に相続されることになります。
※相続人→相続人とは「配偶者」と「子」です。
子がいない場合は「配偶者」と「親(直系尊属)」となります。
子も親も(祖父母)もいない場合は「配偶者」と「死亡した方のきょうだい」が相続人となります。

②近親者
 「近親者固有の損害」として、被害者本人の損害とは別に加害者が賠償しなければならない規定があります。これは民法711条に基づいた「近親者の損害」であり、ここでいう近親者とは「父母、配偶者及び子」とされ近親者の方固有の慰謝料請求権を認められています。
※民法711条→「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子」に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても損害の賠償をしなければならない。
家族・親族・遺族も大切な家族が交通事故に遭い、その家族を失うわけですから精神的苦痛は大きいのは当然です。民法711条は不法行為の被害者の親近者にも、被害者家族を失ったことによる精神的苦痛に対する損害賠償を請求することができることを決めています。

(2)葬儀費用
 葬儀費用は原則として、130~170万円の範囲で認められることが多く実費での費用となります。
 なお、場合によっては仏壇購入、墓石建立費などが別途認められることがあります。

(3)死亡した場合の逸失利益の算定式

計算式 [基礎収入]×[1-生活費控除率]×[ライプニッツ係数]=[逸失利益]

・基礎収入…基礎収入は基本的に交通事故によるケガ・死亡前の被害者の現実の収入を基準として、死亡していた人が年金受給者の場合には、年金も基礎収入となり得ます。
・生活控除…生きている時収入がある反面、生活費はかかってきますが死亡した場合はその生活費がかからなくなりますから、その生活費相当分を控除するのが判例や実務の考え方です。
 ※控除率→・一家の支柱(30~40%)・主婦・独身、幼児を含む女子(30~45%)・独身・幼児を含む男子(50%)
・就労の始期および終期を確定
 実務では原則として18~67歳までとして扱っており、就労の終期は現在の平均寿命を基準にして決められています。
 ※例)37歳で交通事故死した場合の被害者の就労可能年数は、〈67歳ー37歳〉で30年ということになります。
・労働能力喪失期間に対する中間利息
 長期間に及んで発生する被害金額を通常は一時払いにすることから、損害算定時から被害発生時までの利息相当分を控除するのが妥当としています。
 いわゆるこれを中間利息の控除と呼んでいます。
 その計算方法には、実務上、ライプニッツ方式とホフマン方式の2つがありますが、現在では全国で統一的にライプニッツ方式を採用する方向が高まっています。

以上までの計算式にあてた例を以下に表した場合の計算

例) 交通事故により他界した佐藤さんは、会社に勤めるサラリーマンであり年齢は50歳で妻子がおり月収は税込で800万円です。
   この場合、佐藤さんの妻子は将来得られたであろう佐藤さんの収入に対してどれくらい請求できるでしょうか。

計算式 800万円×[1-0.3]×11,2740=6,313万4400円

・800万円…年収
・0.3…一家の支柱の生活費控除額
・11,2740…労働能力喪失期間17年(67歳ー50歳)に対するライプニッツ係数

(4)死亡慰謝料
 死亡慰謝料は、死者の年齢・家族構成等とそれぞれの立場により以下の通りの請求をすることができる。

被害者の立場慰謝料額
一家の支柱の場合
(被害者の生計によって世帯の生計が成り立っている場合)
2800万円
一家の支柱に準ずる場合
(主婦・養育を必要とする子供を持つ母、高齢な父母または幼い兄弟などを扶養している独身者)
2400万円
その他の場合
(独身の男女、子供、幼児等)
2000万円~2200万円

※「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」の基準および民法711条所定の者(近親者)の慰謝料も含めた総額